2億1500万年前の海洋生物の証拠
熊本大・海洋研・高知大・東大・新潟大・千葉工大の研究グループが夏休みにお似合いの研究成果を発表した。
約2億年前、中生代三畳紀に巨大隕石が地球に衝突した際、海洋生物絶滅の証拠を発見したという。
これまで明らかにされていなかった、この時代の隕石衝突による、地球環境変動への影響の実態が明らかになった。
特に証拠となった絶滅生物は「放散虫」。旧種の絶滅と新種の誕生が見られ、隕石衝突が生態系へ複雑に影響することを突き止めた。
同じ動物プランクトンの「放散虫」と「コノドント」の化石を酸処理抽出したところ、この時代の化石群集の絶滅パターンがわかった。
その結果、隕石衝突直後に、非常に高い割合でこれらの絶滅が確認されたという。
証拠を発見した場所は、岐阜県の山間部である美濃加茂市の坂祝町(さかほぎちょう)。
岐阜県は、海のない県ではあるが、全域でアンモナイトなど、三畳紀より3000万年以上昔の白亜紀の化石が見つかることで有名。
近隣の瑞浪市には化石博物館もある。
この研究成果は、7月8日付けで英国ネイチャー誌系科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。
英サイエンティフィック・リポーツ
英国「Scientific Reports」は、一次研究論文を扱い、研究論文を査読して出版する、英国「ネイチャー」誌系列のオープンアクセスの電子ジャーナルである。
特に、自然科学における各種特定分野の専門家が興味を持つような研究論文を取り扱っている。
ここに7月8日、「Bolide impact triggered the Late Triassic extinction event in equatorial Panthalassa」というタイトルで、論文が掲載された。
海洋生物の絶滅と誕生の引き金
地球に衝突した隕石の大きさは、推定直径3.3~7.8km(桁が細かいわりには大雑把で笑える)。
衝突のインパクトによって、放散虫の絶滅が確認されたが、その後の歴史を調べていくと、約30万年間も元に戻らなかったことが明らかになった。
またこの30万年かけて、以前の放散虫mの生息が戻ってきたわけではなく、以前は存在しなかった新たな種の放散虫が出現していたこともわかったという。
そして、以前生息していた種の放散虫は、ほとんどが絶滅してしまった。
つまり、隕石衝突のインパクトが、放散虫という生物の種を入れ替えてしまったということ。
図中の[1]の部分が旧種の放散虫と、新種の放散虫が入れ替わった時代。隕石衝突の直後であることがわかる。
これを進化というべきか、ニュータイプというべきなのかわかりません。
しかし、人間界に置き換えると、とてつもないドラマのような気がします。
放散虫の旧種絶滅と新種誕生
研究報告によると、放散虫の主の入れ替えは、以下のステップが考えられるとされた。
- 衝突以前
植物プランクトンが豊富で、高い基礎生産量が維持され、放散虫も多くいた。
海底には放散虫の死骸が岩石化し、放散虫チャートが堆積した。 - 2億1500万円前の衝突
直径3.3~7.8kmの隕石が衝突した。
基礎生産量と放散虫生産量が著しく低下して絶滅した。
隕石そのものの物質や飛散した物質が衝突の衝撃で飛散した物質がイジェクタ層となって海底に堆積した。 - 衝突後30万年以降
基礎生産が復活した。
新しい放散虫群集の出現が確認された。
その死骸は新しい種の放散虫チャートとなって海底に堆積した。
衝突前の放散虫群集は絶滅してしまった。
種の入れ替えを解明した検査方法
今回海洋生物絶滅の証拠になった、放散虫やコノドントは、大きさが0.1~1mmと小さく、観察に顕微鏡を必要とする。
そのため、代表的な検査は、酸処理抽出という有毒作業を行い、化石が埋もれている岩石を溶かして、微細な化石を抽出することから始める。
今回の化石は、岐阜県坂祝町の木曽川沿いに露出している「チャート」から抽出したため、溶かし出す酸は「フッ酸」が使われた。
参考のため、酸処理抽出の工程を示しておく。
- 岩石「チャート」を細かく砕いて容器に入れる
- 容器に「フッ酸」を注ぐ
- 約一晩ほどつけておくと岩石がボロボロになる
- 液ごとふるいにかけてボロボロのカスだけを取り出す
- 「フッ酸」がなくなるまで水で洗い流す
- 専用のオーブンに入れて完全に乾燥させる
- 顕微鏡を使って化石を抽出する
酸が岩石を溶かす時、有毒なガスを発するため、酸処理抽出作業は、地味でかつ危険な作業である。
大学の研究員は、華々しい成果の裏側で、身の安全を削りながら研究に勤しんでいるのだ。
その他の検査方法について
- 元素分析オンライン質量分析計
試料中の有機物を高温で熱分解し、燃焼ガスを熱伝導検出器や質量分析部分で測定することで、試料中の有機物に含まれる酸素・窒素の同位体比率を精密に決定し、試料のごとの違いを調べることができる。 - 傾向X線分析装置
X線を試料に照射した時に発生する、元素ごとに固有の傾向X線の強度やエネルギーを測定して、試料中に含まれる元素の含有量を決定できる装置。資料ごとの違いを調べることができる。
昔は岐阜県にも海があったのか
みなさまがご存知かどうかは別として、岐阜県は7つの県に囲まれた、海のない山間部と平野と木曽三川の県である。
しかしここは太古の昔、海だったと言われている。
岐阜県の5つのエリアからは、かつての海洋生物化石の堆積が確認されている。つまり海だった証拠である。
- 飛騨外緑帯構成岩類
飛騨山脈の槍ヶ岳から高山市奥飛騨温泉、丹生川町北部、国府町、清見町楢谷、郡上白鳥などに断片して露出している岩類。
飛騨地方の南側を取り巻く、幅が数km~30kmほどの細長い地質帯である。 - 美濃帯堆積岩類
飛騨外縁帯の南側に広く位置する。
この時代のものになると、大陸の移動や沈下時に剥ぎ取られたり混合したりして、地層などの場所を特定することは困難。
そのため、露出している岩の種類で分類する。 - 手取層群
福井県東部、石川県東南部、岐阜県北部、富山県南部にかけて分布するジュラ紀前記から白亜紀前記に形成された地層。
アンモナイトの化石により区分を決めた経緯がある。 - 瑞浪層群
岐阜県の中濃地方から東濃地方にかけて、可児・瑞浪・岩村に分布する。
可児は、今回の証拠が発掘された坂祝町の隣の市であり、関連性が考えられる。